睡眠時間の理想と平均、注目高まる睡眠関連ビジネス動向と事例

「働き方改革」が段階的に施行され、健康経営や長時間労働是正などが急速に広がる中、「適切な睡眠時間を確保し、睡眠の質を高め、仕事の生産性も健康も積極的に自己管理しよう」という機運が社会全体で高まっている。睡眠の重要性が改めて見直されていることを背景に、「睡眠関連ビジネス」は加熱。さまざまな企業が相次いで睡眠市場に参入している。

理想の睡眠時間とは

日本人の平均的な睡眠時間

日本人は世界的に見ても睡眠時間が短く、平均睡眠時間は先進国で最低レベルとされている。厚生労働省の「平成29年国民健康・栄養調査」は、睡眠で休養が十分にとれていない人の割合は増加傾向にあると報告している。

1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満の割合が最も高く、男性 35.0%、女性 33.4%である。6時間未満の者の割合は、男性 36.1%、女性 42.1%であり、性・年齢階級別 にみると、男女とも 40 歳代で最も高く、それぞれ 48.5%、52.4%である。引用:厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」

 

特に働き盛りの40代男女の睡眠不足が顕著で、40〜50代は男女ともに睡眠時間5時間以下が10%を超える。

 

さらに同調査では睡眠で休養が取れていない者の割合の年次比較も行なっている。調査開始の平成21年では「睡眠で休養が十分にとれていない者の割合」は19.4%だったが、この割合も年々増加している。

 

総務省統計局の「平成28年度社会生活基本調査」によれば日本人の平成28年度の平均睡眠時間は7時間40分。これは世界の睡眠事情と比較しても短い。

OECD(経済協力開発機構)が2014年に行った国際比較調査のうち、各国の15歳~64歳までの男女の睡眠時間を比較すると、最も長い南アフリカの9時間22分と比べ、日本人は男性・女性ともに睡眠時間が8時間未満と、1時間30分以上も短いことが分かる。また世界主要国29カ国の中で韓国に次いで2番目に短いということも分かっており、日本は世界的に見て“睡眠不足の国”と言うことが出来る。引用:日本睡眠科学研究所「現代人の睡眠状況」

 

日本人の子どもの睡眠時間については、世界で最も短いとの報告がある。

子どもの心身の健全な発達には良好な睡眠は欠かせませんが、24 時間社会の 広がりに伴う夜型化によって、遅寝や睡眠時間が減少するなど、小児をめぐる睡眠の状況は決して良好とはいえません。3 歳未満の乳幼児の睡眠を 17 で比較した調査では、アジア諸国では全般に欧米諸国より就床時刻が遅く、総睡眠時間が短い傾向がみられますが、特に日本の平均総睡眠時間は 11.6 時間と最も短いことが報告されており、子どもの良好な睡眠を確保することは急務です。(引用:厚生労働科学研究補助金 未就学児の睡眠・情報通信機器使用研究班「未就学児の睡眠指針」

 

不眠症は国民病

「眠ろうとしているのに眠れない」「寝つきが悪い」「睡眠中に何度も目が覚める」といった「不眠症」や「睡眠障害」に悩む人は多い。厚生労働省は日本人の5人に1人が睡眠に問題を抱えているとしている。

日本人を対象にした調査によれば、5人に1人が「睡眠で休養が取れていない」、「何らかの不眠がある」と回答しています。加齢とともに不眠は増加します。60歳以上の方では約3人に一人が睡眠問題で悩んでいます。そのため通院している方の20人に1人が不眠のため睡眠薬を服用しています。引用:e-ヘルスネット「不眠症」

理想の睡眠時間の考え方

最適な睡眠時間には個人差があり、年齢や季節などの条件によっても変化する。一般的には8時間睡眠が理想とされるが、日中に眠気で困ることがなければ十分な睡眠が確保できていると言われている。また加齢とともに睡眠時間は短くなる傾向があるので、高齢者が眠れないことを深刻に捉える必要はなく、むしろ高齢者にとって「8時間睡眠」は長すぎるとされる。厚生労働省では睡眠時間について次のようにアドバイスしている。

睡眠時間には個人差があります。日本人の睡眠時間は平均して7時間程度ですが、3時間ほどの睡眠で間に合っている人もいれば、10時間ほど眠らないと寝足りない人までさまざまです。また健康な人でも年齢とともに中途覚醒や早朝覚醒が増えてきます。「若い頃はもっと眠れたのに」は禁物です。最初にも書きましたが、不眠症は不眠そのものだけではなく「日中に不調が出現する」ことが問題なのです。眠りが浅く感じられても昼間の生活に支障がなければ不眠症とは診断されません。睡眠時間が短いことや目覚め回数にこだわりすぎないことが大事です。引用:e-ヘルスネット「不眠症」

睡眠時間と睡眠の質

睡眠にはリズムがある。最初に眠りについたあたりから眠りは急速に深くなり、この「深い眠り」と「浅い眠り」を約90分のサイクルで4〜5回繰り返す。朝い眠りは「レム睡眠」と呼ばれ、脳が活発に活動するので夢を見ていることが多い。またレム睡眠以外の睡眠は「ノンレム睡眠」と呼ばれ、成長ホルモンの分泌や免疫増強作用などを担っている。特に最初の「ノンレム睡眠」が一番熟睡でき、睡眠の質の鍵や疲労回復の要となっているとされる。

個人差があるので一概には言えませんが、ノンレム睡眠(90分)とレム睡眠(90分)のサイクルを4回、つまり約6時間の睡眠で十分といわれています。また、脳は眠りはじめの3時間で必要な休息のほとんどをとるので、3時間でよいという人もいます。(引用:日本医師会「レム睡眠とノンレム睡眠」)

 

一方、睡眠の質で睡眠の量をカバーすることはできないという説もある。27万部の大ヒットとなった、2017年3月に出版された「スタンフォード式 最高の睡眠」では、最初のノンレム睡眠=黄金の90分の大切さを訴えると同時に、著者の西野精治氏はインタビューで「睡眠の質で睡眠の量をカバーすることはできない」ことに触れている。

最初の90分の質を高めれば、すっきりした朝を迎えられるうえに、昼間の眠気も軽減します。 “しっかり寝たはずなのに、疲れがとれない”ということもなくなるのです。忙しくて寝る時間がない人ほど、絶対に90分の質を下げてはいけないともいえます。それほど”黄金の90分”は睡眠に欠かせない最大基礎なのです。ただし、「黄金の90分」の質がよければ睡眠時間は2〜3時間でいいというわけではありません。睡眠時間は最低でも6時間以上はとることが大切。「6時間」を確保して「黄金の90分」に深く眠るのが、質の高い睡眠にするコツです。(引用:世界睡眠会議「睡眠の質の上げ方を知って、日中のパフォーマンスをアップ!」

最高の睡眠には一日の過ごし方を見直す必要も

睡眠の質を改善するには、一般的に言われている「10時に寝床につく」「身体の深部体温を下げるために、就寝の90分前に入浴する」といったテクニックだけでなく、起床時間から日中の過ごし方までを見直すことが大切。「夜になると自然に眠くなる」リズムを作るためだ。「リズムを作る」=「体内時計を正常に働かせる」ためには、毎朝同じ時間に起き、日中は太陽の光を十分に浴び、ある程度肉体を疲労させ、夕方以降に睡眠ホルモンであり成長ホルモンでもあるメラトニンを分泌させる必要がある。これにより自然と眠気がやってくるため、スムーズな入眠につなげることができる。

 

睡眠時間に関する悩みと健康リスク

睡眠不足や、質の悪い睡眠によって起こされる問題は「睡眠習慣(慢性的な睡眠不足)」と「睡眠障害(眠りたいのに眠れない、眠っている途中に覚醒してしまうなど)」に分けられ、いずれもさまざまな疾病やトラブルの原因となる。

「睡眠習慣」によって起こる問題

  • 日中眠気に襲われる
  • 意欲が低下する
  • 仕事や学習の生産性が落ちる
  • 記憶力が低下する
  • 体内ホルモンや自律神経系の乱れによりさまざまな不調が生じやすくなる
  • 食欲が増大することによる肥満リスクの増加
  • 糖尿病、心筋梗塞、狭心症などの生活習慣病リスクの増加
  • 子どもの場合、成長ホルモンの分泌に悪影響を与え、健やかな成長を阻害する
    参照:e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」

「睡眠障害」によって起こる問題

  • 睡眠障害は100種類近くある
  • 代表的なものが不眠症
  • 出産後や更年期に起こりやすい不眠
  • 睡眠時無呼吸症候群(ひどいいびきが気になる場合は注意が必要)
  • 高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、逆流性食道炎など生活習慣病リスクの増加
  • 転倒・転落・交通事故などの事故のリスクの増加
    参照:e-ヘルスネット「健やかな眠りの意義」

 

睡眠関連ビジネス市場の動向とビジネス事例

睡眠に対する生活者ニーズは「質の高い睡眠を得たい」「自分に必要な睡眠時間を知りたい」があり、睡眠をキーワードにした商品・サービスは2つに大別される。

  • 質の高い睡眠を得たい
    ⇒寝具、アロマ、音楽、照明などの睡眠環境やサプリメントなどの食品で睡眠の質を高める
  • 自分に必要な睡眠時間を知りたい
    ⇒最新テクノロジーやウェアラブルで自分の睡眠状態をトラッキング(追跡)し、自分に必要な睡眠時間や睡眠の質を分析・記録する

睡眠関連ビジネス市場の動向

「睡眠関連ビジネス市場」の内容と業種は多岐にわたる。矢野経済研究所が発表した「2018年度版 睡眠関連ビジネス市場の現状と方向性」には、睡眠関連市場として以下項目を並べている。

  (1)機能性寝具類(ベッド関連、枕)
  (2)睡眠関連サプリメント(機能性食品「睡眠の質の向上」)
  (3)医薬品(主に睡眠改善薬)
  (4)睡眠時無呼吸症候群(SAS)関連(CPAP機器を中心として)
  (5)睡眠計測器
  (6)その他(照明器具、ホテル)
引用:矢野経済研究所「2018年度版 睡眠関連ビジネス市場の現状と方向性」

また同資料では、睡眠ビジネス参入企業として以下の企業を取り上げている。

  • 味の素
  • エアウィーヴ
  • エスエス製薬
  • オムロンヘルレスケア
  • シモンズ
  • スリープウェル
  • スリープセレクト
  • セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ
  • 太陽化学
  • 帝人ファーマ
  • 帝人
  • テンピユール・シーリー・ジャパン
  • ドリームベッド
  • 西川産業
  • 西川リビング
  • パラマウントベッド
  • フィリップス・レスピロニクス
  • フランスベッドホールディングス
  • レイコップ・ジャパン
    引用:矢野経済研究所「2018年度版 睡眠関連ビジネス市場の現状と方向性」

 

上記からは、寝具関連企業だけでなく食品、製薬、繊維、電気機器メーカーなど、さまざまな業種が睡眠ビジネスへ参入していることが確認できる。また上記には含まれていないが、フィットネス&スポーツクラブ、エステ&マッサージ、ホテル、入浴施設、カフェ、インテリア&家具、メガネといった多様な業種からの睡眠ビジネスへの参入もここ数年で相次いでいる。

7000億円近い市場(矢野経済研究所調べ)を持つ枕やベッドなどの寝具だけでなく、機能性表示食品、空調、防音、照明、リラックスできるBGM、安眠できる衣料やサプリメント、アロマ、化粧品、入浴剤、ヨガ、健康器具、エステ、マッサージ、健康管理サービス、睡眠カウンセリング、お昼寝カフェなどもすべて含まれる。 引用:ビジネス+IT「スリープテックがいよいよ本格化、「眠れない日本人」を救うか」

 

市場規模については正確な調査資料が存在しないが、ビジネス+IT「スリープテックがいよいよ本格化、「眠れない日本人」を救うか」では以下のように推測している。

「睡眠ビジネス」の国内市場規模は寝具新聞社の2016年の調査によると1兆2359億円にのぼり、潜在市場は3兆円とも5兆円ともいわれている。少なく見積もっても1兆円以上の巨大市場である。(引用:ビジネス+IT「スリープテックがいよいよ本格化、「眠れない日本人」を救うか」)

 

睡眠をサポートするビジネス

スリープテック 〜アプリ編〜

睡眠ビジネスの中でも活況を呈しているのが「スリープテック」。睡眠(スリープ)とIT技術(テクノロジー)を活用し、睡眠状態を計測、記録、分析し、睡眠の質の改善を促しサポートする製品やアプリなどのことを「スリープテック」という。具体的にはどのような製品があるのか。メジャーなものではアップルウォッチなどに搭載できるアプリがある。iPhoneやAndroidoの人気アプリを検索できるサイト「Appliv」内の「睡眠の質を改善するアプリランキングTOP10」では以下アプリが高評価を得ている。

スリープテック 〜家電編〜

家電量販店ビックカメラでは、特集コンテンツ「スリープテック〜快適な睡眠を〜」で「目につけるタイプ(アイピローやアイマスクタイプ)」「耳につけるタイプ」「目覚まし型タイプ」「枕に置くタイプ」「指につけるタイプ」を紹介し、オンラインからも購入可。他に「5分で快眠」をキーワードに、聴覚・嗅覚・視覚を刺激して快眠へ導くデバイス「Sleepion3」も。スマホの簡単操作で、設定した時間に自動でカーテンを開閉し質の高い睡眠をサポートする「めざましカーテン mornin+」なども注目商品。

睡眠コンセプト型サービス

ヨガ、ホテル、リラクゼーションサロンなど既存サービスのコンセプトを「睡眠」に策定することで、新たな顧客獲得につなげている事例も増えている。

睡眠関連資格

睡眠関連の資格も登場。

  • 安眠インストラクター
    安らかにぐっすり眠るサポートを行い、快適な眠りを教える。資格取得後講師活動が行える
  • 睡眠健康指導士
    正しい睡眠知識を社会の人々に伝え、国民の健康増進に寄与できる人材を養成
  • 睡眠検定
    入門、3級、2級、1級と段階があり入門は無料、3級からは有料。オンラインでのみ受験できる検定
  • 睡眠コンサルタント
    スマホで学び、試験もオンラインで受験。約1か月の勉強で「睡眠のプロ」を目指す
  • 睡眠改善インストラクター(睡眠改善指導者初級)
    睡眠に関する正しい環境と生活習慣をアドバイスする「睡眠改善指導者」。3日の講座を受けて最終日に認定試験を行う
  • スリープアドバイザー
    西川が「西川 日本睡眠科学研究所」の理論をもとに、「睡眠習慣」「寝室環境」「寝具」などの立場から快眠のための知識やアドバイスができる人材育成のために作った資格試験。受験者は西川の従業員、及び商品を取り扱うショップ店員など。主に寝具全般の提案の知識が身につく
  • スリープマスター
    スリープアドバイザーの上級試験で、寝具だけでなく睡眠に関する幅広い知識を有することで寝具以外の睡眠に関する悩みにも対応できるようになる

「ナップ(仮眠)」でさえ「できる人」のイメージに

「睡眠不足は酩酊状態と同じ」「睡眠負債が体を蝕む」といった、睡眠不足に対するネガティブな情報が多く報道される中、睡眠をおろそかにする人︎=自己管理のできない人、という印象が広がり始めている。睡眠を見直し睡眠の効果を体感することで、疲労回復や病気予防・改善、エイジング対策など、得られる効果は大きい。ナップ(仮眠)を導入する企業も増え、「よく休む人」=「怠けている人」ではなく「できる人」の印象に変わりつつある。「睡眠を管理し、コントロールする」新たな価値観ははじまったばかり。「睡眠関連ビジネス」からはまだまだヒットが生まれそうだ。

 

 

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