2025年の高齢者市場は101兆円、それでも乗り込まない企業の理由

超高齢社会に突入した日本で今熱いのは高齢者市場。―と言われて久しいものの今なおブルーオーシャンなのは、賑わっているように見えて実は市場に乗り出すのを躊躇する企業が多いからだ。だが「2025年、高齢者市場101兆円」と聞いたら、やはり高齢者市場で戦わないのはもったいないと思うはず。改めて商機を探りたい企業に向け、把握しておくべきトピックを網羅的に集めた。高齢者市場の定義、市場を形成する3分野、高齢女性を理解する統計などをみていこう。そして本稿の最後に、この市場に魅力を感じているのに乗り込もうとしない企業に共通した理由を、女性ヘルスケア市場専門のシンクタンクである当社ウーマンズの裏話としてまとめた。

高齢者市場って、そもそも何歳以上の市場?

高齢者市場とは

高齢者市場とは高齢者を対象にした市場のことで、家計における消費支出と公的支出(社会保障給付)で構成される。ではそもそも「高齢者」は何歳以上の人をさすのか。根拠は不明と言われているが、世界保健機関(WHO)は65歳以上を高齢者と定義し、わが国もそれに従い65歳以上を高齢者とし、65〜74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼んでいる。なお、高齢化率を指標にしている高齢者社会(高齢化社会・高齢社会・超高齢社会)の各定義についてはこちらで解説

  • 【日本における高齢者の定義】
    ・65~74歳…前期高齢者
    ・75歳以上…後期高齢者

変わりつつある“高齢者”の定義と、その背景

高齢者は65歳以上とされてきたが、近年はそれに違和感を感じるといった声が方々から聞こえてくるようになり、その定義は崩れ始めている。2017年には日本老年学会と日本老年医学会が、75歳以上を高齢者と定義すると提言し話題となった。同発表では65歳以上の年齢を次のように区分している。

  • 【日本老年学会・日本老年医学会による新たな定義】
    ・65~74歳…准高齢者
    ・75~89歳…高齢者
    ・90歳以上…超高齢者

高齢者の定義を75歳以上に引き上げようとする動きの背景には、日本で見られる「若返り現象」が挙げられている。日本老年学会・日本老年医学会が行った調査によれば、現在の高齢者は身体機能変化の出現が、10~20年前と比較して5~10年ほど遅延しているという。

実際にこれまで高齢者とされた65歳以上の人でも(とりわけ、前期高齢者と言われてきた65〜74歳の人たち)、心身の健康が保たれ活発な毎日を送っている人や仕事をしている人は大勢いる。

内閣府によると、国内の労働力人口に占める65歳以上の割合は年々上昇しており、1980年は4.9%だったのが2018年は12.8%に。この40年で約2.6倍増えている。なお2018年は労働力人口6,830万人のうち、786万人が65歳以上だった(65〜69歳:450万人,70歳以上:336万人)。もう少し詳しく見ると、男女別・年代別の割合は以下表の通り。

【65歳以上の就業状況の割合】

女性 65〜69歳 36.6%
70〜74歳 23.1%
男性 65〜69歳 57.2%
70〜74歳 38.1%

参考:令和元年版高齢社会白書(内閣府)「高齢者の就業状態」

数字から見てもわかる通り65歳以上で元気な人は多い。この年齢にあたる本人たちも、社会から高齢者扱いされることに違和感や抵抗を感じている人が増えている。高齢者の定義を日本全体で変えていくことで、超高齢社会における人手不足や医療費問題の解決に向けて、従来高齢者と呼ばれてきた層の社会参加意欲を高めていくことが狙いだ。

高齢者市場規模は急速に拡大、2025年に101兆円へ

高齢者市場、100兆円へ

みずほコーポレート銀行の産業調査によると、高齢者(ここでは65歳以上と定義)の市場規模は、2025年は101.3兆円規模に拡大する(※)。背景にあるのはやはり高齢者人口の増加で、2025年は人口ボリューム層である団塊世代にあたる全ての人が75歳以上に突入することが大きい。なお、この年の高齢化率は30%に達すると見込まれている。(※)既述の通り高齢者市場とは、家計支出における消費支出と社会保障給付を合わせた市場のこと

高齢者市場の内訳、3分野

同調査では高齢者市場を形成する3分野を次のように分類している。

1.生活産業

  • <市場規模>
    2007年:40.3兆円
    2025年:51.1兆円(26.8%増)
  • <主な構成要素>
    ・食料(食料品製造業、飲食店他)
    ・家具・家事用品(製造業、卸・小売業他)
    ・被服・履物(繊維業他)
    ・交通・通信(運輸業、情報通信業他)
    ・教養・娯楽(教育・サービス業他)

2.介護産業

  • <市場規模>
    2007年:6.4兆円
    2025年:15.2兆円(137.5%増)
  • <主な構成要素>
    ・在宅介護(訪問/通所サービス、介護予防支援、福祉用具)
    ・居住系介護(短期入所サービス、グループホーム)
    ・介護施設(介護サービス、入居費用・施設関連費用)

3.医療・医薬産業

  • <市場規模>
    2007年:16.2兆円
    2025年:35兆円(116%増)
  • <主な構成要素>
    ・サービス(医師など人件費、調剤報酬)
    ・器具(診断機器、処置/手術器具)
    ・医療(治療薬、診断薬、予防薬)
    ・施設関連費用(入院費用)
    参考:みずほ銀行「高齢者市場」

高齢者市場を理解する基礎知識

高齢者の人口割合の推移

65歳以上が人口に占める割合は、年々上昇傾向にある。1950年に4.9%だった高齢化率は2018年には28.1%に急上昇。このまま上昇を続けた場合、2040年には35.3%に達し、約3人に1人が高齢者となる時代がやって来る。

高齢者の男女別人口、都道府県別ランキング(男女別)

2018年の人口推計より、65歳以上の人口を都道府県別にランキング形式で見てみよう。最も多いのは男女ともに東京都、最も少ないのは男女ともに鳥取県。

順位 男性 順位 女性
都道府県 人口
(千人)
都道府県 人口
(千人)
1 東京都 1,380 1 東京都 1,808
2 大阪府 1,048 2 大阪府 1,372
3 神奈川県 1.028 3 神奈川県 1,277
4 埼玉県 875 4 埼玉県 1,059
5 愛知県 837 5 愛知県 1,039
6 千葉県 778 6 北海道 964
7 北海道 692 7 千葉県 944
8 兵庫県 682 8 兵庫県 896
9 福岡県 589 9 福岡県 819
10 静岡県 478 10 静岡県 604
11 茨城県 376 11 広島県 466
12 広島県 352 12 茨城県 457
13 京都府 321 13 京都府 428
14 新潟県 308 14 新潟県 408
15 長野県 285 15 長野県 365
16 宮城県 281 16 宮城県 362
17 岐阜県 261 17 岐阜県 334
18 群馬県 255 18 岡山県 326
19 福島県 253 19 福島県 323
20 岡山県 245 20 群馬県 320
21 栃木県 244 21 熊本県 311
22 三重県 230 22 栃木県 302
23 熊本県 226 23 三重県 297
24 鹿児島県 215 24 鹿児島県 292
25 山口県 195 25 山口県 270
26 愛媛県 185 26 愛媛県 255
27 奈良県 180 27 長崎県 250
28 長崎県 179 28 青森県 243
29 岩手県 170 29 岩手県 234
30 青森県 169 30 奈良県 233
31 滋賀県 162 31 大分県 215
32 大分県 156 32 秋田県 210
33 山形県 154 33 山形県 204
34 秋田県 147 34 滋賀県 201
35 宮崎県 145 35 宮崎県 197
36 富山県 143 36 富山県 193
37 石川県 143 37 石川県 191
38 沖縄県 140 38 和歌山県 177
39 香川県 132 39 沖縄県 173
40 和歌山県 129 40 香川県 171
41 山梨県 109 41 高知県 143
42 徳島県 105 42 佐賀県 142
43 高知県 103 43 山梨県 139
44 佐賀県 102 44 徳島県 139
45 福井県 101 45 福井県 133
46 島根県 98 46 島根県 133
47 鳥取県 74 47 鳥取県 103

参考:総務省統計局「人口推計(2018年10月1日)」

高齢化率、都道府県別ランキング

高齢者数が多くても、総人口が多ければ高齢化率は低くなる。その例として、高齢者人口トップ3の東京・大阪・神奈川における高齢化率を見てみると、それぞれ46位39位44位。

順位 都道府県 総人口
(千人)
65歳以上人口
(千人)
高齢化率
1 秋田県 996 354 35.6
2 高知県 714 244 34.2
3 島根県 685 230 33.6
4 山口県 1,383 462 33.4
5 徳島県 743 241 32.4
6 山形県 1,102 355 32.2
7 和歌山県 945 304 32.2
8 愛媛県 1,364 437 32.1
9 岩手県 1,255 400 31.9
10 青森県 1,278 407 31.8
11 大分県 1,152 367 31.8
12 富山県 1,056 334 31.6
13 新潟県 2,267 709 31.3
14 長崎県 1,354 424 31.3
15 長野県 2,076 647 31.1
16 香川県 967 301 31.1
17 宮崎県 1,089 338 31.1
18 鳥取県 565 175 31
19 鹿児島県 1,626 501 30.8
20 北海道 5,320 1,632 30.7
21 奈良県 1,348 408 30.3
22 福島県 1,882 569 30.2
23 熊本県 1,765 531 30.1
24 福井県 779 232 29.8
25 山梨県 823 245 29.8
26 岡山県 1,907 567 29.7
27 岐阜県 2,008 589 29.3
28 佐賀県 824 240 29.2
29 静岡県 3,675 1,069 29.1
30 三重県 1,800 522 29
31 群馬県 1,960 567 28.9
32 石川県 1,147 331 28.8
33 京都府 2,599 743 28.6
34 広島県 2,829 809 28.6
35 茨城県 2,892 819 28.3
36 兵庫県 5,503 1,558 28.3
37 栃木県 1,957 536 27.4
38 宮城県 2,323 631 27.2
39 大阪府 8,823 2,399 27.2
40 千葉県 6,246 1,692 27.1
41 福岡県 5,107 1,384 27.1
42 埼玉県 7,310 1,900 26
43 滋賀県 1,413 357 25.3
44 神奈川県 9,159 2,274 24.8
45 愛知県 7,525 1,852 24.6
46 東京都 13,724 3,160 23
47 沖縄県 1,443 303 21

参考:内閣府「地域別にみた高齢化」

世帯構造の変化

65歳以上の人がいる世帯別構造も、1980年から2016年にかけて大きく変化している。全世帯のなかで65歳以上がいる世帯が占める割合は、1980年は24.0%。1990年代に入ってから急激に上昇し、2017年は47.2%に。今は、2家族に1家族は65歳以上の人がいる、ということになる。

また、今後は 一人暮らしの65歳以上が顕著に増えていく。1980年は一人暮らしをする65歳以上の人は男女合わせて88万人だったのが、2025年には751万人と、爆発的に増えていく。女性の一人暮らしが男性よりも多いのは、女性の方が長生きをするからだと考えられる(夫との死別を機に、一人暮らしになる)。

【65歳以上の一人暮らしの者】

 1980年  2015年  2025年
女性 69万人
(11.2%)
400万人
(21.1%)
483万人
(23.2%)
 男性 19万人
( 4.3%)
 192万人
(13.3%)
268万人
(16.8%)

※( )内は65歳以上人口に占める一人暮らしの人の割合
参考:令和元年版高齢社会白書(内閣府)「65歳以上の一人暮らしの者の動向」

平均寿命の推移と将来推計

世界一の長寿国である日本の平均寿命は、2018年に男性が81.25歳、女性が87.32歳となって過去最高を記録した。医療技術の発展や、人々が医療にアクセスしやすくなったことなどを背景に、日本の平均寿命は年々伸びている。2065年時点での平均寿命は、男性84.95歳、女性91.35歳となる見込み。

 

高齢者の暮らしや意識

内閣府から毎年発表されている「高齢社会白書」には、高齢者の意識や暮らしぶりを知れるデータが掲載されている。2020年7月時点で最新となる「令和元年版高齢社会白書」は、「高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」と、「高齢社会対策」の二部構成。前半では、さまざまな調査による統計資料を使った高齢化の現状が報告されている。

高齢社会白書は、高齢社会対策基本法に基づき、平成8年から毎年政府が国会に提出している年次報告書であり、高齢化の状況や政府が講じた高齢社会対策の実施の状況、また、高齢化の状況を考慮して講じようとする施策について明らかにしているものです。引用:内閣府「高齢社会白書」

他、高齢者の意識などを理解できる記事は以下。

高齢者市場へ乗り込まない企業の、共通した「乗り込まない理由」〜ウーマンズ裏話〜

当メディア運営元のウーマンズには、日々、様々な企業からのヘルスケアマーケティング支援の依頼・相談が持ち込まれる。その中で気づいたのは、高齢者市場に熱い視線を寄せている企業は実に多いものの、二の足を踏み、実際の行動(ターゲッット策定や商品開発)に移す企業はとても少ないということ。

高齢女性は“謎めいた存在”に見えてしまう

話をよくよく聞いてみると、高齢女性のニーズが未知な領域であることが最大のネックになっていると感じる。高齢女性に関するデータが他世代と比べると圧倒的に少ないため消費意識・消費行動を掴みきれないことや、高齢女性は自分のライフスタイルや消費基準が完全に確立されている上に、トレンドへのアンテナが低く新しいモノ・コトへの好奇心が弱くなっているといったことから、この世代の女性は企業にとって謎めいた存在なのだ。

社内の若い世代は高齢者市場に挑戦したい気持ちがあっても、これまで高齢女性をターゲットにしたビジネス経験が自社含め同業他社にもないという時代の中で仕事をしてきた上長世代の了承を得られず、結局実現に至らなかったという話は多い。部署で新たにチームを立ち上げたとしても、戦略を詰めきれず頓挫した、という相談も頻繁に持ち込まれる。

未だ高齢者市場はブルーオーシャン

結局単に高齢女性に対する理解不足・知識不足が、企業が高齢者市場に乗り込むのを阻んでいると感じるのだが、ウーマンズとしては、市場参入は各社が思うほど難解だとは思っていない。

もちろん、消費基準が確立されているこの世代の心を掴んでヒットを飛ばすのは簡単ではないが、「難解ではない」と断言できるのは、高齢化率は今後さらに上がっていくにも関わらず未だ高齢者市場はブルーオーシャンで、この年代の女性たちが本当に求めているものが今の世の中には驚くほど少ないからだ。

高齢女性のニーズ・不便は取り残されたまま

当社ウーマンズでは、ヘルスケア企業を情報とリサーチで支援するために、20〜100歳代女性のヘルスケアニーズやトレンドの研究を基礎業務として続けているが、その一作業である取材からも感じるのは、高齢女性のニーズ・不便があまりにも取り残されすぎているということだ。

若い世代(特に30代以下)に向けた商品・サービスは次々にローンチされ強豪ひしめきあっている一方で、高齢女性の市場はさほど大きな動きは見られない。もちろん、画期的な介護テックデバイスやヘルステックデバイスが登場し業界を賑わせることはあるが、高齢女性たちが求めているのは何も高度なテックデバイスだけではない。

もっと、日常生活の中にあるちょっとした不便・不満ごとの解決や利便性、楽しさを求めている。そもそも、高齢女性向け=高齢で病気があることを前提にした市場、という解釈の元、高度な商品開発に挑もうとする企業やベンチャーが多いことにも驚かされる。

「高齢女性=有病者」決めつけてないか?

本項でも紹介しているが、今の高齢女性は心も体も元気。“60代以上はおばぁちゃん”という考えは、もう昭和の話。今は、60代・70代も「女子会」と称し友人と集い、メイクやファッションを楽しむ。

子・孫世代と洋服や化粧品をシェアし、インスタに写真を投稿する方法を積極的に教わり、パソコンでワードやエクセルを使った資料を作ったりもする。スマホも使いこなす女性も結構いる。デジタルに詳しい女性はもちろん他年代と比べたら圧倒的に少ないが、ここで皆さんに言いたいのは、こんなにも時代は変わったということだ。そしてこうやって聞くと、さほど謎めいた存在ではないことにも気づくだろう。高齢者市場への参入は、思っているほど難解ではないのだ。

それでもまだ二の足を踏むのであれば、まずは、自分の身近にいる60代以上の女性(母親、叔母など親戚、友人、近所の人、趣味仲間など)に、企業・商品への不満や、生活の不便ごとなどについて聞いてみたらどうだろう。発見が多く、高齢者市場に乗り出す自信につながるはずだ。

 

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