健康行動に取り組んでいない女性6割、なぜ無関心?

厚労省は先月末、初めて健康無関心層の実態を男女別・年齢別に調査し、国民健康・栄養調査(令和元年)で結果を公表した。それによると、食習慣・運動習慣の改善に関心・意向がない無関心層の女性は約4割、改善意向があるものの行動はしていない女性は2割で、合わせると約6割近くが、食・運動による健康行動を起こしていないことがわかった。健康無関心層に着目した調査が初めてだったこともあり、この調査結果を取り上げたメディアは多く、調査結果をすでにチェックした読者の方も多いだろう。さて気になるのは、6割もの女性が健康行動を起こしていない理由。健康ブーム真っ只中なのに、ちょっと意外な結果。なぜ?その答えを探ってみると、様々な要因が見えてきた。

健康行動をしていない女性、6割

食習慣改善に取り組んでいない、55%

20〜70歳以上に「食習慣を改善してみようと考えているか?」と聞いたところ、関心・意向がないいわゆる”無関心期層(※)”にあたる女性は35.7%、現在は行動していないが改善するつもりがある”関心期・準備期層”にあたる女性は19.7%で、合わせると55.4%が食習慣改善による健康行動に取り組んでいないことがわかった。実際に行動を起こしているのはわずか2割だ厚労省「国民健康・栄養調査,令和元年」

(※)行動変容ステージモデルの簡易的な理解は厚労省のサイトでチェック。なお、厚労省が実施した今回の調査では、無関心層にあたる人を「改善することに関心がない」「関心はあるが改善するつもりはない」に細分している。

食習慣改善の意思 健康への無関心層と関心層のグラフ

調査結果の概要

  • 【無関心期層】改善することに関心がない…10.7%
  • 【無関心期層】関心はあるが改善するつもりはない…25.0%
  • 【関心期層】改善するつもりである(概ね6ヶ月以内)…14.9%
  • 【準備期層】近いうちに(概ね1ヶ月以内)改善するつもりである…4.8%
  • 【実行期層】既に改善に取り組んでいる(6ヶ月未満)…7.9%
  • 【維持期層】既に改善に取り組んでいる(6ヶ月以上)…15.6%
  • 食習慣に問題はないため改善する必要はない…21.3%
  • 年代別に見ると全年代において最多は、無関心期にあたる「関心はあるが改善するつもりはない」
  • 食習慣に自信があり「改善の必要がない」と思う人は、高齢層に多い。若い人ほど食習慣に自信がない

運動習慣改善に取り組んでいない、62%

「運動習慣を改善してみようと考えているか?」という質問についても、概ね食と同様の結果となった。”無関心期層”は37%、現在は行動していないが関心・意向はある”関心期・準備期層”にあたる女性は25%で、62%が運動による健康行動をしていないことがわかった。実際に行動を起こしているのは、やはり同様に2割。

調査結果概要

  • 【無関心期層】改善することに関心がない…11.1%
  • 【無関心期層】関心はあるが改善するつもりはない…26.3%
  • 【関心期層】改善するつもりである(概ね6ヶ月以内)…20.0%
  • 【準備期層】近いうちに(概ね1ヶ月以内)改善するつもりである…5.1%
  • 【実行期層】既に改善に取り組んでいる(6ヶ月未満)…8.2%
  • 【維持期層】既に改善に取り組んでいる(6ヶ月以上)…17.7%
  • 食習慣に問題はないため改善する必要はない…11.7%
  • 年代別に見ると、40代以外の全ての年代で最多は、無関心期にあたる「関心はあるが改善するつもりはない」
  • 運動習慣に自信があり「改善の必要がない」と思う人は、高齢層に多い。若い人ほど運動習慣に自信がない

 

なぜ健康行動していない?8つの理由

女性の半数は健康を目的とした食・運動行動をしていない。だがこの調査結果は、”未行動層”にいる女性たちの健康行動を起こすことができればポテンシャルは大きい、という見方もできる。健康行動が起きればヘルスケア消費が活発になるので、期待大のクラスターだ。だが、一般的に知られる行動変容技法だけで健康行動にスイッチを入れるのは、そう簡単ではない。理論や技法の前にまず知るべきは、そもそも論、「なぜ健康行動を起こさないのか?」。各種調査結果をリサーチして、その理由を探ってみた。

1.仕事・家事・育児で忙しい

国民健康・栄養調査では、健康な食習慣の妨げになっている理由についても聞いている。それによると、未行動者が理由に挙げた中で多かったのは「仕事・家事・育児が忙しくて時間がない」だった。この理由を挙げたのは特に育児・子育て世代である30〜40代で多く、食習慣改善の意思別に見ると、関心期・準備期層にあたる「改善するつもりである」と回答した人たちだった。

 

運動習慣の妨げになっている理由についても同様の結果が出ており、仕事・家事・育児の忙しさを理由に挙げる人が、特に関心期・準備期層に多かった。

 

 

明治安田生命が実施した「健康に関するアンケート調査(2019)」でも、参考になる回答が得られている(対象:全国の20〜70代の男女)。健康づくりの取組に挫折した経験がある人に理由を聞いたところ、最多はやはり「仕事や家事が忙しかったから(37.3%)」だった。

これらの調査結果からは、健康行動を起こしたい気持ちはあるのに”時間貧乏”であるために行動を起こせずにいる女性たちの存在が見えてくる。このジレンマは、当社ウーマンズで実施している日記調査でも明らかになっている。未就学児のワーママを対象に調査を実施したところ、彼女たちは、仕事と育児の両立をこなしていくために必要な最低限の健康維持に努めるのに精一杯で、さらなる健康増進を目的にした健康行動は、時間がないことを理由に全くできていないことがわかった。“仕事・家事・育児”と”健康行動”はトレードオフ。この意識から健康づくりを断念している人は、特に現役世代・子育て世代に多い。課題解決策の提案が必要だ。

2.自分も身近な人も健康

健康行動が起きない理由として、自分や家族など周囲の人が健康であることも挙げられる。自分や周囲の人が健康問題を抱えていなければ、不調や病気はあくまで他人事。健康行動を起こす必要性に迫られない。ではこのような人たちは、どのようなタイミングで健康行動が起きるのか?行動変容が最も起きやすいのは病気による余命宣告をされた時だと言われているが、自身の死期を間近に感じること以外にも、行動変容が起きやすいポイントがある。それは、自分・家族・友人の病気だ。明治安田生命が実施した調査で「健康に気をつけるようになったきっかけは何か?」という質問に対し、女性(20〜70代)の回答ランキングは以下だった。トップ3を見ると、自分自身や周囲の病気が健康行動のきっかけになっていることがわかる。

  • 1位:自分が病気をしたから(27.4%)
  • 2位: 家族や友人が病気をしたから(25.0%)
  • 3位:定期健康診断結果や、医師などの勧めがあったから(20.8%)
  • 4位:新聞・雑誌・テレビなどの健康記事や番組を見たから(17.4%)
  • 5位:家族や友人の勧めがあったから(6.3%)
  • 6位:その他(3.7%)

年代別に見ると、自分や周囲の影響がきっかけになっているのが顕著なのは40代以上。自分自身を含め、親・義親、夫、同世代の友人など、年齢的に病気を患う人が周囲に増えてくるからだと考えられる。

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3.お金がない

ある程度の経済的余裕がなければ、十分な健康行動の維持は難しいのが現実だ。もちろん「ウォーキング」や「お菓子を食べない」「自宅内で自重トレーニング」など、お金のかからない健康法はいくらでもある。だがある程度のコストを必須とする健康行動もある。例えば1汁2〜3菜の食事を毎度揃えようとすると、野菜やタンパク質系食材が必要になってくる。だが、毎日・毎食続けようとするとそれなりにお金がかかる。

当社ウーマンズが女性生活者から収集した食事日記調査でも明らかになっており、世帯年収が低い女性の食生活はカップラーメンやご飯のみ、という主食完結型の食事が多い。聞くと「野菜やタンパク質は高くて買えない。カップラーメンなら1食100〜200円程度で済むし、お腹も膨れる」とのこと。他にもコストを必要とする健康づくりがある。その代表例は検診だ。検診代が高いことを理由に受診しない女性は一定数いる。健康経営に関連した調査だが、「どのような特典・サービスがあれば健康増進の推進がより図られると思うか?」と聞いている調査結果がある明治安田生命。上位に上がったのは金銭的なことで、「健診・検診受診やスポーツジムの利用に補助金が出ること(あるいは無償化)」を望む声が多い。

  • 1位:人間ドッグ含め健診に対する補助金(無償化含む)(52.2%)
  • 2位:健康になると特典(金銭的なメリット含む)が受けられる商品・サービス(37.3%)
  • 3位:スポーツジム利用に対する国や自治体からの補助金(33.0%)
  • 4位:健康器具購入に対する補助金(18.1%)
  • 5位:運動機会の提供(運動施設の拡充や参加型イベントの開催など)(16.5%)
  • 6位:医療費の自己負担額増(15.5%)
  • 7位:禁煙に対する国や自治体からの補助金(13.3%)
  • 8位:健康セミナーの開催(12.4%)
  • 9位:その他(4.9%)

なお経済的余裕があったとしても、女性の場合、そのお金が必ずしも健康消費にまわるとは限らない。女性は健康と同様に美容にもお金をかけているし、今よりもさらにお金をかけたいと思っている。年齢、可処分所得、持病・不調の有無などによって美容と健康の消費割合は個々で異なるが、「仕事・家事・育児」と「健康づくり」のトレードオフと同様に、「美容」と「健康」のトレードオフも女性たちは常に考えている。

4.環境が整っていない

健康行動を起こしたり継続するには、環境も重要だ。例えば次のような環境にいる場合、健康行動の継続は簡単ではない。

  • 私は減塩・低カロリー・低糖質メニューを毎食続けたいのに、家族は濃い味付けの高カロリー食が大好き
  • 夫は健康意識が低く夕食後にいつもお菓子を食べる。それを見ていると我慢できずに私もつい食べてしまう
  • 1kの部屋で一人暮らし。自宅内で運動をするスペースがない
  • 日中は忙しいので夜にウォーキングをしたい。でも自宅周辺は人通りが少ないので夜は外出が怖い

具体的な目標・計画の策定も、健康行動の環境を整える上で大切だ。「健康づくりに挫折しないために必要なこと」に関する調査では、「目標・計画の策定」が最多だった。続いて、一緒に頑張れる仲間や周囲からの励ましの声を求める声も多い明治安田生命

  • 1位:目標、計画の策定(38.5%)
  • 2位:一緒に健康増進に取り組む仲間(25.0%)
  • 3位:家族・友人からの励まし・声かけ(%)
  • 4位:友人や家族に宣言する(11.9%)
  • 5位:お金をかけ、挫折しない状況を作る(10.8%)
  • 6位:その他(4.2%)

5.楽しくない(インセンティブは無関心層に効果なし?)

これは老若男女関係なく誰にでも言える共通項だが、健康行動そのものを楽しめたり、目に見える変化を実感できたり、健康行動のその先にあるワクワクがないと、継続は難しい。この対策としてはインセンティブの付与やゲーミフィケーションが知られているが、無関心層においてはインセンティブが響きにくい可能性が示唆されている。NTTデータ経営研究所が実施した興味深い調査がある。行動変容ステージ別に「どのような物的インセンティブがあれば、より運動をするか?」と聞いたところ、無関心層で「あてはまるものがない」と回答した人の割合が、関心・準備期層、実行層、継続層より高かった。ちなみに「関心期・準備期層」は、求めるインセンティブに「現金」と回答する割合が全層の中で最も高かった。“現金”な話だが、同じ未行動群でも「関心期・準備期層」は、無関心期層よりも現金のインセンティブ効果は高いようだ。

6.ヘルスリテラシーが低い

健康行動を起こすのも継続するのも、ある程度の基礎知識を持っていることは重要だ。いわゆるヘルスリテラシーだが、専門知識ではなくてもある程度の基本的な知識があれば、自分に適した健康行動を効率よく選択できる上に、健康行動の必要性や未来の結果に自信を持てるので、継続へのモチベーションも上がる。

MSDが行った「健康・医療に関する意識調査(2017年)」では、ヘルスリテラシーを年代別に調査している(対象:20〜70代以上の男女)。「健康や医療の知識をどの程度持っているか?」という質問に対し、「詳しい方だと思う」「一般的な知識は持っていると思う」と回答した人の割合は年齢とともに高くなることがわかった。

  • 20代:35%
  • 30代:41.4%
  • 40代:41.2%
  • 50代:52.6%
  • 60代:61.4%
  • 70代:66.8%

若いと健康問題が少ないこともあり、特に20代は健康・医療に関する知識が乏しい。女性は月経・妊娠・出産があり、さらに美容と健康をセットで思考する習慣があるため、男性よりも若いうちから健康意識を持つが、それでも、女性特有の健康問題をはじめ、健康・医療情報を正しく理解・選択・活用できている女性は多くない。

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一方で年齢を重ねると、自身や周囲の人が健康問題を抱えるようになることから、自ら健康・医療情報にアクセスしたり、医療者と話す機会が増えることで知識量は自然と増えていく。ただしその情報が正しいかどうかは怪しい。

というのも、健康・医療の情報源としてネットに頼っている人が圧倒的に多いからだ。同様にMSDの調査によれば、情報源を聞いた質問に最多の回答が「検索サイト」で約8割。さらに、ネットで検索しているものの半数の人は「書いてある情報が正しいかどうか分からない」と言っている。半信半疑で収集した情報なので、必ずしもその知識が正しいとは言い切れない。正しい知識があれば健康行動やヘルスケア消費の選択がスムーズにできるようになるが、残念ながら健康・医療に関する正しい知識を網羅的に学習し最新情報に頻繁に触れる機会を得ているのは、医療者など一部に限られている。

一般の生活者が有している知識はバラつきがある上に内容の正誤も曖昧。正しいヘルスケア消費が起きづらい状況になっている。生活者に向け正しい健康知識を提供するのは、ヘルスケア企業の重要なミッションだ。

7.考えるのも 、決断も面倒

健康について考え決断することそのものも、健康行動の妨げになっている。女性は男性よりも日々のタスクが多く、関心は多方面に向けられている。自分のこと(美容・ファッション・仕事・学び・趣味・老後など)、子供のこと(育児・子育て・教育方針・PTAなど)、家族のこと(夫の健康管理・親/義親の健康や介護・親戚づきあいなど)、お金のこと(住宅ローン・自動車ローン・子供の教育費・老後の貯金など)。これらはほんの一例だが、全てが女性にとっては重要項目なので、健康行動ばかりを最優先にしていられないのが本音。そうなると、健康に関する情報を調べるのも、考えたり迷ったりするのも、決断するのも面倒ごとでしかない。

最近は、AIで食事メニューを自動提案したり食事写真の解析で栄養状態を判定するといった、高度なテクノロジーを駆使したサービスが登場しているが、利便性を認めてはいても、そのサービスを利用するための数分の登録作業や、使い方をマスターする事すらも面倒に感じてしまう。既述の通り、習慣改善意向はあるものの行動をしていない人たちの健康行動を邪魔している一つは忙しいこと。忙しい中、どうやって面倒がられずに商品・サービスを受け入れてもらうか?明確にクリアにしておきたい課題だ。

8.性格

健康行動への関心度合いは、性格的なことも影響しているようだ。NTTデータ経営研究所が無関心層の性質を調査している。それによると以下の傾向が見られたという。

  • リスクが嫌い
  • 内向的な性格(外向性・協調性が低い)
  • 自分の社会的階層を低く自認する

無関心層へのアプローチをする際に、この層特有の為人を考慮するのも、効果的なマーケティング施策の立案に役立つかもしれない。

健康意識「女性は予防型」「男性は対処型」

本項でご紹介した明治安田生命の調査レポートに、興味深い考察があった。健康管理意識の男女差について述べているもので、「女性は予防型」「男性は対処型」とまとめていた。「確かに」と、膝を打つ。ヘルスリテラシーの高低、健康意識、健康行動など、健康にまつわるあらゆる側面で男女差はすでに認められているが、同レポートの表現は、ヘルスケア領域における性差マーケティングを的確に捉えている。このことからも改めてわかるとおり、健康づくりに関連する商品・サービスに関心を寄せるのは、男性よりも女性だ。だが関心があるのと実際に行動できているのは別の話。様々な理由から女性の健康行動が妨げられているという事実をスタートラインに、各要因を取り除くためのマーケティング施策を考えてみてはどうだろう?行動変容技法を活用するのは、その次の段階だ。

 

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