健康行動に取り組んでいない女性6割、なぜ無関心?(3/3)

5.楽しくない(インセンティブは無関心層に効果なし?)

これは老若男女関係なく誰にでも言える共通項だが、健康行動そのものを楽しめたり、目に見える変化を実感できたり、健康行動のその先にあるワクワクがないと、継続は難しい。

この対策としてはインセンティブの付与やゲーミフィケーションが知られているが、無関心層においてはインセンティブが響きにくい可能性が示唆されている。NTTデータ経営研究所が実施した興味深い調査がある。

行動変容ステージ別に「どのような物的インセンティブがあれば、より運動をするか?」と聞いたところ、無関心層で「あてはまるものがない」と回答した人の割合が、関心・準備期層、実行層、継続層より高かった。

ちなみに「関心期・準備期層」は、求めるインセンティブに「現金」と回答する割合が全層の中で最も高かった。“現金”な話だが、同じ未行動群でも「関心期・準備期層」は、無関心期層よりも現金のインセンティブ効果は高いようだ。

6.ヘルスリテラシーが低い

健康行動を起こすのも継続するのも、ある程度の基礎知識を持っていることは重要だ。いわゆるヘルスリテラシーだが、専門知識ではなくてもある程度の基本的な知識があれば、自分に適した健康行動を効率よく選択できる上に、健康行動の必要性や未来の結果に自信を持てるので、継続へのモチベーションも上がる。

MSDが行った「健康・医療に関する意識調査(2017年)」では、ヘルスリテラシーを年代別に調査している(対象:20〜70代以上の男女)。「健康や医療の知識をどの程度持っているか?」という質問に対し、「詳しい方だと思う」「一般的な知識は持っていると思う」と回答した人の割合は年齢とともに高くなることがわかった。

  • 20代:35%
  • 30代:41.4%
  • 40代:41.2%
  • 50代:52.6%
  • 60代:61.4%
  • 70代:66.8%

若いと健康問題が少ないこともあり、特に20代は健康・医療に関する知識が乏しい。女性は月経・妊娠・出産があり、さらに美容と健康をセットで思考する習慣があるため、男性よりも若いうちから健康意識を持つが、それでも、女性特有の健康問題をはじめ、健康・医療情報を正しく理解・選択・活用できている女性は多くない。

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一方で年齢を重ねると、自身や周囲の人が健康問題を抱えるようになることから、自ら健康・医療情報にアクセスしたり、医療者と話す機会が増えることで知識量は自然と増えていく。ただしその情報が正しいかどうかは怪しい。

というのも、健康・医療の情報源としてネットに頼っている人が圧倒的に多いからだ。同様にMSDの調査によれば、情報源を聞いた質問に最多の回答が「検索サイト」で約8割。さらに、ネットで検索しているものの半数の人は「書いてある情報が正しいかどうか分からない」と言っている。半信半疑で収集した情報なので、必ずしもその知識が正しいとは言い切れない。

正しい知識があれば健康行動やヘルスケア消費の選択がスムーズにできるようになるが、残念ながら健康・医療に関する正しい知識を網羅的に学習し最新情報に頻繁に触れる機会を得ているのは、医療者など一部に限られている。

一般の生活者が有している知識はバラつきがある上に内容の正誤も曖昧。正しいヘルスケア消費が起きづらい状況になっている。生活者に向け正しい健康知識を提供するのは、ヘルスケア企業の重要なミッションだ。

7.考えるのも 、決断も面倒

健康について考え決断することそのものも、健康行動の妨げになっている。女性は男性よりも日々のタスクが多く、関心は多方面に向けられている。自分のこと(美容・ファッション・仕事・学び・趣味・老後など)、子供のこと(育児・子育て・教育方針・PTAなど)、家族のこと(夫の健康管理・親/義親の健康や介護・親戚づきあいなど)、お金のこと(住宅ローン・自動車ローン・子供の教育費・老後の貯金など)。これらはほんの一例だが、全てが女性にとっては重要項目なので、健康行動ばかりを最優先にしていられないのが本音。そうなると、健康に関する情報を調べるのも、考えたり迷ったりするのも、決断するのも面倒ごとでしかない。

最近は、AIで食事メニューを自動提案したり食事写真の解析で栄養状態を判定するといった、高度なテクノロジーを駆使したサービスが登場しているが、利便性を認めてはいても、そのサービスを利用するための数分の登録作業や、使い方をマスターする事すらも面倒に感じてしまう。

既述の通り、習慣改善意向はあるものの行動をしていない人たちの健康行動を邪魔している一つは忙しいこと。忙しい中、どうやって面倒がられずに商品・サービスを受け入れてもらうか?明確にクリアにしておきたい課題だ。

8.性格

健康行動への関心度合いは、性格的なことも影響しているようだ。NTTデータ経営研究所が無関心層の性質を調査している。それによると以下の傾向が見られたという。

  • リスクが嫌い
  • 内向的な性格(外向性・協調性が低い)
  • 自分の社会的階層を低く自認する

無関心層へのアプローチをする際に、この層特有の為人を考慮するのも、効果的なマーケティング施策の立案に役立つかもしれない。

健康意識「女性は予防型」「男性は対処型」

本項でご紹介した明治安田生命の調査レポートに、興味深い考察があった。健康管理意識の男女差について述べているもので、「女性は予防型」「男性は対処型」とまとめていた。「確かに」と、膝を打つ。

ヘルスリテラシーの高低、健康意識、健康行動など、健康にまつわるあらゆる側面で男女差はすでに認められているが、同レポートの表現は、ヘルスケア領域における性差マーケティングを的確に捉えている。

このことからも改めてわかるとおり、健康づくりに関連する商品・サービスに関心を寄せるのは、男性よりも女性だ。だが関心があるのと実際に行動できているのは別の話。

様々な理由から女性の健康行動が妨げられているという事実をスタートラインに、各要因を取り除くためのマーケティング施策を考えてみてはどうだろう?行動変容技法を活用するのは、その次の段階だ。

 

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