高齢者社会の定義から考える、日本と世界の高齢化事情と問題・対策(3/3)

高齢者社会の問題点と対策

問題点

国内の人口急減・超高齢社会が経済社会に及ぼす影響としては、以下4つの問題点が挙げられている。

  • 経済規模の縮小
    労働力の加速度的な減少によって、“働く人”よりも“支えられる人”が増加。急速な人口減少による国内市場の縮小が、生産力・成長力の低下を招き、さらに労働力不足を補うために長時間労働が深刻化。ワーク・ライフ・バランスも改善されず、少子化が更に進行していくという悪循環が生ずるおそれもある。一旦経済規模の縮小が始まると、それが更なる縮小を招くという「縮小スパイラル」に陥る危険性がある
  • 基礎自治体の担い手の減少、東京圏の高齢化
    地方圏から大都市圏への人口移動がこれまで通り推移する場合、地方自治体の行政機能の維持は困難になる。さらに地方圏よりも出生率が低い東京圏では、超高齢社会の進行によって十分な医療・介護を受けられない事態も想定される
  • 社会保障制度と財政の持続可能性
    現在は、高齢者1人に対して現役世代が2.4人で支えている「肩車社会」(2014年時点)。社会保障に関する「給付」と「負担」のアンバランスは一段と強まっている。また、財政赤字が十分に削減されなければ財政破綻への道も避けられない
  • 理想の子ども数を持てない社会
    国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によれば、2010年に夫婦にたずねた理想的な子ども数は2.42人。しかし実際の子ども数は1.71と、理想と現実にギャップが存在。内閣府はこのように指摘する。「高齢者を支える社会保障制度が整備される以前においては、子どもを老後の支えや国の支えと考える発想が一般的だった中で合計特殊出生率も高かった一方、社会保障制度が充実している現在においては、そうした発想に代わって、子どもを持ちたいから、自然なことだからという考えが多数を占めるようになっているにもかかわらず、合計特殊出生率は大きく低下しているのである人口・経済・地域社会の将来像より」。

対策

国は高齢者社会への対策として平成7年「高齢社会対策基本法」を施行。同法は、急速に進行する高齢化に適切に対処し、経済社会の健全な発展と国民生活の安定向上をはかることを目的としている。また国と地方公共団体の、高齢者社会対策としての責務や国民の努力についても規定。

国が実施すべき高齢者社会対策の基本的施策として、就業・所得、健康・福祉、学習・社会参加といった施策について明らかにしている。具体的な対策として、基本的施策の指針が6分野で掲げられている。

  1.  就業・所得
    年齢にとらわれず働ける社会の実現に向けた環境整備、公的年金制度の安定的運営、資産形成等の支援等を図る
  2.  健康・福祉
    健康づくりの総合的推進、持続可能な介護保険制度の運営、介護サービスの充実、持続可能な高齢者医療制度の運営、認知症高齢者支援施策の推進、人生の最終段階における医療の在り方、住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進等を図る
  3. 学習・社会参加
    学習活動の促進、社会参加活動の促進等を図る
  4. 生活環境
    豊かで安定した住生活の確保、高齢社会に適したまちづくりの総合的推進、交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護、成年後見制度の利用促進等を図る
  5. 研究開発・国際社会への貢献度
    先進技術の活用及び高齢者向け市場の活性化、研究開発等の推進と基盤整備、諸外国との知見や課題の共有等を図る
  6. 全ての世代の活躍推進
    全ての世代の人々が高齢社会での役割を担いながら、積極的に参画する社会を構築するための施策の推進を図ることとしており、各分野で ニッポン一億総活躍プラン、働き方改革実行計画、新しい経済政策パッケージ等との連携も進めていく
    参考:内閣府「令和元年版 高齢社会白書」

高齢社会対策大綱(※)では高齢者の定義について、65歳以上を一律に「高齢者」と見ることの難しさを指摘。意欲ある高齢者が能力を発揮できる社会環境の整備を提唱している。
(※)高齢社会対策大綱は、高齢社会対策基本法によって政府に作成が義務付けられているものであり、政府が推進する高齢社会対策の中長期にわたる基本的かつ総合的な指針となるもの

高齢者社会を学ぶ 〜高齢者マーケティングの参考に〜

高齢者社会の現状を学ぶには毎年内閣府が報告する「高齢社会白書」が網羅的にまとめられており、分かりやすい。また高齢者社会にスポットを当てた論文や書籍も参考になる。

高齢社会白書(令和年版版)

高齢社会対策基本法にもとづいて、政府が毎年国会に提出している年次報告書。高齢化の状況や政府が講じた高齢社会対策の実施状況、高齢化の状況を鑑みて今後講じようとする施策について明らかにしている。

高齢者社会について述べている論文

急激な人口減少は、人口構造を歪ませ、日本経済の安定した発展や子どもの健全な成長にも悪影響を及ぼしかねない。以下論文では、人口減少社会を克服するための方策を探っている。

高齢者社会に関する書籍


日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

東大がつくった高齢社会の教科書: 長寿時代の人生設計と社会創造

高齢者に関するマーケティング記事

高齢者社会と少子化対策は表裏一体

高齢者社会のあらゆる問題についてみてきたが、その根幹にはそもそも「人口減少」の問題が前提として存在している。その分かりやすい例が、労働力人口不足による経済規模縮小や社会制度の崩壊。超高齢社会は、寿命の延伸とともに合計特殊出生率の低下が重なってはじめて起こりうるため、高齢者社会の対策は、つまりは少子化対策に繋がっていくといえる。現状の課題だけを見つめるのではなく、その前提となる問題の出所に目を向けることが重要だ。

 

【編集部おすすめ記事】
60歳以上女性の、買い物に行くときの手段
【話題の女性】看護師&僧侶の玉置妙憂さん「医療と宗教」 
ヘルスケア業界、11個の課題
認知症高齢者数の推計 2060年には3人に1人
オンライン診療とは メリット・デメリット・今後の課題
65歳以上は、どのような世帯構造?

 

PAGE TOP
×