女性を解放するマーケティングの新概念、止まない「自己肯定感ブーム」から見えてくるもの (3/3)

女性の自己肯定感が低くなるクラスターとタイミング

日本人女性は全体的に自己肯定感が低いとは言っても、その強弱はクラスターによって異なる。どんなクラスター女性の自己肯定感が特に下がりやすいのか?女性マーケティング視点の分類で見ていこう。

SNSヘビーユーザー

既述の通り、SNSでは世界中の様々な“完璧な女性”を目にする。他人と比較して劣等感に陥る機会が必然的に多いため、SNSヘビーユーザーの中には、SNSによって自己肯定感が低下した女性が多く存在する。

特に10〜20代の若い女性の外見コンプレックスへの影響は大きく、完璧な容姿の女性に近づくために、摂食障害や過剰な美容整形、安全性が確認されていないサプリにはまるなど、健康被害のトラブルにも繋がりやすい。

働くママ

働くママ(特にまだ育児中の場合)は、あらゆるクラスターの中でも特に忙しい。そんな多忙を極めながら働くママはたくさんの「こうせねば」と葛藤している。「子どものご飯は手作りしなくちゃ」「おしゃれで綺麗なママでいなくちゃ」「仕事と家事・育児を完璧に両立せねば」「保育園への急なお迎えや時短勤務で同僚に迷惑をかけないよう、家での隙間時間で仕事を片付けなきゃ」などだ。

「女性誌やSNSに登場するママも、同僚ママも、公園で見かけるママも、皆、笑顔でそつなく仕事も育児もこなしているように見えるけど、私はそんなにキラキラできない。もういっぱいいっぱいー」と、自分だけが上手くできていないと感じてしまう働くママは多く、両立や育児の自信を失うことをきっかけに自己肯定感が低下する。

いろいろなタイプの専業主婦

専業主婦の中でも特に時間的余裕または経済的余裕がない女性や、社会との接点がない女性の場合、自己肯定感が下がりやすい。

例えばそれまでバリバリと仕事をしていた女性が妊娠・出産を機に突如専業主婦へと転向し、自宅でワンオペ育児をするケース。特に一人目の出産でこの状況に陥りやすく、慣れない育児ストレスの中で自宅にこもる生活が続くと、「社会から切り離された」「社会での役割を失った」と感じ、自己肯定ができなくなる。

また、ワンオペかつ忙しい夫の生活周りの全ての世話をしている女性、家族の介護を一人で担っている女性、ダブルケアラー女性など、1日のほぼ全ての時間を家族の世話に費やし自分時間が皆無という女性も、自己肯定感が下がりやすい。

家族の面倒を見ることで自分の存在意義を感じる女性もいるが、体力的・精神的負担が大きくなってくるとやがてストレスが増大し、「家族の世話のために自分は生きている。自分自身の人生を歩めていない」と、自分自身の人生を肯定できなくなる。

女性ホルモンのバランスが変化するタイミング

月経前、更年期、妊娠中・産後など、女性ホルモンのバランスが変化する時も、自己肯定感が下がりやすい。これは多くの女性が経験していることで、不安・イライラ・悲しい・自己嫌悪などのネガティブな感情が生まれる。

中には、自分は何のために生きているのかわからなくなり、希死念慮にかられる危険な状態を引き起こすこともあるほど、精神的に不安定になりやすい。

更年期については、年齢的に子どもが巣立つタイミングで「空の巣症候群」に陥りやすい。子どもが進学・就職・結婚を機に家を出ることで、母親が自分の存在意義を見出せなくなる。

エイジングサインが顕著になった時

シミ、シワ、たるみ、体型の変化など、エイジングサインが顕著になった時に自己肯定感が低下する女性もいる。

もともと美容感度の高い女性、外見を強みにした仕事をしている女性(モデル、役者、インフルエンサーなど)、エイジズムが強い職業についている女性(テレビ番組のアナウンサー、キャビンアテンダント、企業の受付など)などが特にあてはまりやすい。

シニア

シニアの年齢に突入すると、様々なライフイベントが一気にやってくる。夫や自分自身の退職、夫や親との死別、自分自身の病気、親の介護など環境の変化に加え、それによる人間関係の変化も起きる(夫に先立たれ一人暮らしになる、あるいは子ども家族のところへ引っ越して同居するなど)。健康不安や経済不安も重なり、生きる目的を失ったり、人生そのものに対する意欲が低下する女性もいる。

ハラスメント被害にあった時

モラハラ、パワハラ、セクハラの被害は女性に多い。加害者は、恋人、昔の恋人、夫、別れた夫、義親、兄弟、親族など身近な場合もあれば、職場の上司や取引先、ママ友、近所の人など外部の場合もある。ハラスメント被害がきっかけとなり自己肯定感が低下するケースは多い。

仕事

仕事で自己肯定感を持てない女性は多い。好きな仕事に就けていない、仕事にやりがいを見出せない、職場で平等な評価を得られず男女差別を感じた時などに自己肯定感が下がりやすい。趣味や家庭、副業など、本業の仕事以外に生きがいを持っている女性は仕事による自己肯定感の喪失はないが、そうでない場合は特に低下しやすい。

マイノリティー

がんサバイバー、持病を抱えている人、不調がある人、障害を抱えている人、LGBTQに代表される性的マイノリティ、ダブルケアラーなど、いわゆる社会的少数者は、マジョリティではないために受ける差別や不当な扱いをされることがあり、それにより自己肯定感が低下する。

自己肯定感とダイバーシティの関係

世界的潮流として「ダイバーシティ」の概念が広がり、国内でもダイバーシティを意識した取り組みが官民で始まっている。だが企業の人たちと話していると、「商品開発やCMなどのプロモーションでは、ダイバーシティをどう表現すればいいのか?」という質問がよく投げられ、具体的な実装にあたりまだ試行錯誤の段階にいる企業が多い印象だ。

ウーマンズでは日々、国内外の企業のダイバーシティ事例や女性たちの反応をリサーチしているが、「ダイバーシティな世の中が実現すれば、あらゆる女性の自己肯定感が高まる」ということを常々感じる。資本主義経済とルッキズムが世界を動かしてきた今の世の中では、自己肯定感が高い女性とは極端な言い方も含めれば、富裕層、容姿が優れている、高学歴、成功者、夢を叶えた人、思い描いた通りの人生を送っている人など限定的であった。

だが、個々それぞれがダイバーシティを包摂することができれば、いろんな個性を持った女性も、あらゆる状況にいる女性も、今よりも確実に自己肯定感は高くなるのではないかと切に思う。

このように考えると、やはりダイバーシティと自己肯定感はセットで考える必要があり、そこに「ダイバーシティを表現したマーケティング施策」のヒントが隠れているのではないだろうか。本稿後半では自己肯定感が下がりやすいクラスターやタイミングを紹介したが、こういった、普段のマーケティングでは注視されてこなかったクラスターに着目すると、ダイバーシティを表現したマーケティング施策を発想しやすくなる。

ダイバーシティの表現はセンシティブな領域でもあるので、マーケティングに落とし込むのは容易ではないが、まずは既述の女性たちの自己肯定感が下がる要因を理解するところから始めると良いかもしれない。

 

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